[ 出張報告 ] マグロ漁操業継続に向けた要請活動 [ パラオ共和国 ]
パラオ出張報告書
平成31年3月28日~4月1日
– 出張までの経緯 –
■沖縄県のマグロ漁獲の実情
近年の沖縄県のマグロ漁獲はパラオ共和国の200カイリ水域内で漁獲量の25%を占める約2千トンの漁獲実績を上げており、県内の33隻のマグロはえ縄漁船が操業している。
■2020年からパラオ水域で操業規制!
パラオ政府は海洋資源保全に向け2015年に国家海洋保護区法を制定し、2020年から200カイリ水域の80%を完全な漁業禁止区域とすることを決定した。現状のままでは同海域で沖縄を含む日本漁船の操業が不可能となるため、沖縄県の漁業に大きな打撃となり、沖縄県民の食生活への影響も懸念される。
■現在の状況
日本政府はパラオ共和国の決定を受け、水産庁はじめ政府間交渉を続けており、沖縄県も県漁連及びマグロ漁業協会とともに2019年2月に日本政府に対し、同海域における操業継続に向けパラオ政府との交渉を要請しているが、未だ解決の道筋がついていないのが現実である。
■沖縄県議会の動き
沖縄県議会において沖縄・自民党は政府及び自民党本部へ操業継続に向けた要請活動を行い、今年の2月定例会で議会に働きかけ「パラオ共和国200海里水域での操業継続に関する意見書」を全会一致で可決に導いた。
※参考資料 沖縄県公式サイト(クリックでPDFが開きます)
・ 「パラオ共和国200海里水域での操業継続に関する意見書」
平成31年第2回議会(定例会)
■沖縄・自民党の要請活動
沖縄・自民党は2020年1月から同海域で操業が出来なくなる事態を極めて深刻に受け止め、日本政府やパラオ現地から情報収集し対策を探っていたところ、この問題を憂慮するパラオ在住県系人の元政府関係者から早急に沖縄から現大統領のレメンゲサウ氏や国会議員等を訪問して沖縄側の真意を伝えることを勧める要請があった。以上の経緯から沖縄・自民党は2月定例会終了後に中川京貴他3人の議員団を派遣した。
– メレンゲサウ大統領との直接会談 –
パラオ共和国大統領メレンゲサウ氏と会談。パラオと沖縄の関係を水産業等の経済や人材交流を今後も発展させたいと一致。
レメンゲサウ大統領は日本とパラオの関係をこれまで通り継続していかなければいけないことを強調し、漁業規制による沖縄のマグロ船の問題解決に向けた直接的な発言は控えていた。
沖縄県との関わりの重要さも認めており、相互の人的交流や沖縄から漁業や農業の技術支援に期待する考えを持っていることが分かった。
県議団を代表して中川県議から農漁業の技術交流も重要だが、人材交流による次世代の育成が大切で、そのためには沖縄県議会として検討したいと述べ民間レベルの交流が両国間の問題を解決すると述べた。
国会議員団との意見交換では海洋保護区法へ賛否の声があり、海洋資源や自然を守ることと、経済振興の両立が問題であるとの認識があった。日本政府の援助には感謝しており、漁業問題も解決に向けて協力したいとの意見もあった。
– 海洋資源育成とサンゴ再生事業の視察 –
公益財団海外漁業協力財団水産資源持続的利用アドバイザーの與世田謙三氏はパラオの水産資源の育成活用に尽力しており、現地の政府や民間事業者からの人望も厚く、漁業水域制限問題についても同氏の立場から解決に向けたアドバイスをしている。
また同氏はサンゴ再生事業を説明し、沖縄県が取組む水産養殖やサンゴ再生事業等にもこれまでの研究実績をいかし寄与したいと話した。
– パラオと沖縄 歴史的繋がりに触れる –
ODAによる施設は道路、橋梁の建設や水産資源利用研究所、養殖施設等が現地の産業振興に貢献していることや、日本の技術提供による下水処理施設はパラオの美しい海を保全している事を実感した。
– ペリリュー島を訪問 –
太平洋戦争で日米激戦の地となったペリリュー島は2015年に天皇皇后両陛下がご訪問され、全ての犠牲者のご冥福を祈った島である。同島は戦前から多くの沖縄県人が在住し、戦争においても多くの犠牲者を出した。
ペリリュー島へ渡り、県人の墓参りと戦跡を巡ったが、想像を絶する激戦の跡に触れ、御霊の鎮魂を祈りつつ、平和の尊さに感謝の一念を捧げた。また現地の方々との懇談し、未遺骨収集や地雷撤去問題への取り組を痛感した。
島内宿泊施設経営者と面談し、今後の墓参団への要請を含め意見交換。
– 成果及び所見 –
現地での情報によると、「同海域における漁業操業規制問題は日本、特に沖縄県の漁業関係者や沖縄県民にとって極めて深刻な事態であるにもかかわらず、日本政府及び沖縄県関係者が現地に赴くことが無く、国同士の外交的な問題解決に委ねられていることが問題」とのことである。戦前から日本との関係や沖縄とのかかわりは深く、親日国として知られ、日本のODAは2018年に9億円と多額に及んでいる。
同国はこれまで沖縄関係者の漁業操業に理解を示してきたことから、同国の大統領が海洋保護のために決めた操業制限とは言え、両国間の歴史と信頼関係からすれば解決できると思われていた。しかし、近年日本政府や沖縄県関係者との交流が急激に薄れる中、方や近隣諸国のプレデンスが大きくなっており、漁業操業も含め懸念する声がある。
この度、沖縄から県議会議員がパラオを訪れて大統領や国会議員等に沖縄側の思いや相互交流の継続の必要性を伝えたことは大きな意義があったと考えている。現地には「日本はマグロが欲しいだけではないか」との声があることも事実であり、沖縄側から沖縄の立場と将来に向けた各種の交流の重要性を示し、賛同を得たことは成果であり、漁業操業問題にも良い影響を与えると思われる。
また、今回の操業規制問題が国家間の外交マターとしてのみの取り扱われると、問題解決の本質を失いかねない可能性があるため、今回の訪問が問題の当事者として時宜を得た活動となり、日本政府及び関係機関に報告する事で今後の両国政府の交渉が建設的に進むことを期待する。
パラオやペリリュー島における沖縄県関係者墓参団は年々減少し、犠牲者の二世三世の墓参団が絶えつつある現状を鑑み、世界平和を発信する沖縄県は経済交流と同時に民間交流継続する中で墓参団を続け、世界平和に貢献するべきである。
– パラオ共和国への出張を終えて –
島袋 大
パラオ海域における漁業操業規制問題は、沖縄県の漁業関係33隻のマグロはえ縄漁船が大きな打撃となり、沖縄県民の食生活への影響も懸念される状況であることから、緊急な対応、意見交換等が必要だと感じ視察を行った。
私は、パラオへ行き感じたことは、日本政府や沖縄関係者が現地に行くことがなく、特に沖縄関係者が、パラオ共和国との経済交流や人材交流などをしっかりし、お互いが友好関係づくりをすることが、これからの将来に向かってのパイプが出来ると実感したところであります。
特にシャコガイの養殖などはこれからの沖縄漁業の新しい事業にもなりうるし、人材育成にもなると感じたところであります。
パラオレメンゲサウ大統領をはじめ上院・下院議員や経済界との意見交換が、これからのパラオ共和国と沖縄県との新しい発展につながると感じたところでありました。経済界の中でもその内容を取り入れて、沖縄の経済産業の発展へ提言し実現していきたいと思う。
中川 京貴
今回のパラオ海域における漁業操業問題については、沖縄県議会全会一致で意見書を政府に提出し、沖縄・自民党会派として、問題解決にむけバラオ共和国メンゲサウ大統領を始め上院・下院議員や経済界と沖縄県の漁業関係33隻のマグロはえ縄漁船が年間23億円の水揚げがあるなか2020年度から操業が出来なければ沖縄の漁業関係者は勿論県民の食生活や沖縄観光への影響が出ることは当然である。
日本政府とパラオ共和国の国同士の問題であるから沖縄県としては口出ししない方が良いという一部の意見もありましたが、沖縄・自民党会派としては山積する課題を解決するために沖縄県が架け橋となり、パラオ共和国の立場も理解しつつ農業・漁業技術・スポーツ・民間交流・人材育成をしながら両国の信頼関係を築き、沖縄県のマグロ漁業が継続できるように問題解決に取り組んでいきたい。
座波 一
沖縄県のマグロ漁獲の25%を占めるパラオ海域での操業が2020年度から操業が出来なければ沖縄の漁業関係者と県民の食生活に大きな影響が出ることは明らかなため、日本政府、水産庁、沖縄県、沖縄漁業団体の立場からそれそれの交渉活動が必要な時期に来ていながら、その動きがないことに危機を感じていたところ、現地パラオの元県系の政府役人や水産資源活用アドバイザー等から沖縄県議会自民党会派へ現地訪問要請があったことは、まさに緊急ではあるが、時宜を得た活動となった。
現地大統領や国会議員との意見交換でも沖縄の立場を理解しているが、日本政府や沖縄県の誠意ある交渉が足りないのではと痛感した。漁業操業問題を外交ルートのみの問題にすることは止めるべきとの意見が現地の沖縄関係者からの意見もあり、パラオ側の事情も汲み取り、丁寧に漁業操業の要請を継続する事が必要と感じた。
また、パラオでは日本との歴史が深いにも拘わらず近年は、日本や沖縄との関係が薄らいでいる事に危機感を持っており、今後沖縄県はパラオと農漁業の技術交流と民間交流の振興を図らなければならないと感じた。そのような取り組みの中で漁業操業問題が双方に、いい結果をもたらし、将来の互恵関係を作り上げることが必要だと確信した。
西銘 啓史郎
今回の視察は、まぐろ組合との意見交換を事前に行い、水産庁の考えも理解する中、現地を訪問。特に現地在住の知花氏との意見交換をパラオ到着当日充分に行う事で翌日の大統領表敬訪問も有意義に行うことが出来た。
パラオ共和国の抱える課題に対し沖縄県としてできる事をしっかり取り組んでいきたい。また水産試験場の視察、浄水場の視察等始め現地スタッフの協力にも深く感謝したい。特に與世田研究員との意見交換は大変参考になった。今後もしっかりと交流を深めたい。